人間に興味を持った妖精のラーラが現在過去未来と遊びながら、少しづつ人間を理解していきます。
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第二部 夢のまた夢 43.44.45.
2007年08月23日(木) 10:58

43




 春が来た。

 どこに来た?

 この山にも来た。新緑の山々が喜んでいる。

 スケッチブックを持って、久美子が鼻歌を歌いながら歩いて行く。

 壊れかけた山寺の前。

「仙人さん、いる?」と声をかけ、久美子は中を覗いた。

 返事はない。

 一升どっくりが床に転がっているだけである。

 久美子は中に入って、とっくりを立てた。



 山の頂上。

 久美子は村を見下ろしている。

 桜が咲き始めている。

 子供たちが元気に遊んでいる。

 村人たちは田畑で働いている。

 後ろに人の気配を感じて、久美子は振り返った。

 仙人がとっくりを下げて、ニコニコしながら立っていた。

「そろそろ、帰るか?」と仙人は言った。

 久美子はうなづいた。

 仙人もうなづいた。

 二人は村を見下ろしている。



 山の中の沼。

 久美子は新緑に囲まれた静かに澄んだ沼を見つめている。

「さよなら」と小さく呟いた。


SAKURA STAMP / 矢野沙織







44




 夕方、久美子が帰って来る。山小屋に入ろうとして中を見ると、ラーラがコタツに入って待っていた。

「あんた‥‥‥」と久美子はラーラを見つめた。

「とうとう、逃げて来ちゃった」とラーラは笑った。

「本当に人間になるつもり?」

 ラーラはうなづいた。

「子供の事は大丈夫なの?」

「気になるけどしょうがないわ。ちゃんと子供には話して来たわ」

「そう‥‥‥」

「あの子もわかってくれたみたい。あたしの話を聞きながら、目に涙を溜めて、じっと、あたしの顔を見てたわ‥‥‥あたし‥‥‥大丈夫よ‥‥‥あの子‥‥‥」

「そう‥‥‥」

 久美子はコタツに入った。

「まだ、寒いわね」

 ラーラは涙をふいて、久美子に笑いかけた。

「それで、これからどうするの?」

「とりあえず、お姉さんについて行く。だって、人間の習慣とか、あたし、何も知らないでしょ。色々と教わらなくちゃ」

「あたしなんか、何も教えられないわよ」

「いいのよ、あたし、お姉さん、好きだもん」

「しょうがないなあ」

「いいでしょ、ね、あたし、お姉さんの妹よ。ね、いいでしょ」

「ええ‥‥‥いいわ」

「よかった」

 喜ぶラーラ。

 無邪気なラーラを見ている久美子。自然と笑ってしまう。


ガーシュウィン / ラベック姉妹







45




 電車を待っている久美子とラーラ。

 見送りに来た寅吉爺さん、加代、春子、幸子、次郎、博。そして、村の人たちも何人か来ている。

「残念じゃな」と寅吉爺さんは言った。「もう少し待てば、先生も帰って来るのにな」

「先生もよろしくお伝え下さい」

「ああ」

「元気でね、先生」と加代が言った。

 うなづく久美子。「皆さん、色々とありがとうございました」

「それはこっちが言う事よ」と春子は言った。「先生、あたしたちの事、忘れないでね」

「忘れないわ、一生。この村の事、そして、みんなの事、絶対、忘れないわ‥‥‥」

「また、いつか来てね」と幸子が言った。

 うなづく久美子。

「元気でな、先生」と次郎は言った。

 うなづく久美子。

「みんなも仲良くね」

「来たぞ」と博。

 電車がホームに入って来た。

 久美子とラーラは電車に乗る。

「‥‥‥」と寅吉爺さんは久美子の顔を見つめた。

 久美子はうなづいた。

 みんなも何も言わず、久美子を見ている。

 久美子も何も言わず、みんなを見ている。

 ベルが鳴り、ドアが閉まり、電車がゆっくりと走り出した。

 手を振る久美子。

 手を振るみんな。

 電車と共に駆け出す三人娘と次郎と博。

 ホームの端まで来て手を振る五人。

「せんせえ〜」

 電車は新緑の中を、光の中を走り去って行った。
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