人間に興味を持った妖精のラーラが現在過去未来と遊びながら、少しづつ人間を理解していきます。
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第三部 無住心 23.24.
2007年09月27日(木) 12:59

23




 五郎右衛門が木剣を構えて、空を睨んでいると、「五エ門さ〜ん」とお鶴が帰って来た。

 風呂敷包みと酒を抱えながら、川の中を歩いて来る。

「走ってきたら疲れちゃった」とお鶴は笑った。

「何じゃ、それは?」

「あたしの所帯道具よ。あたしが寝ていた時、色々とお世話になったからさ。あたし、そういうのに弱いでしょ。だから、今度はあたしがあなたのお世話をするの。押しかけ女房よ。嬉しい?」

「その酒は嬉しいがの、お前はうるさいからいい」

「言ったわね。嫌いよ、あんたなんか! あたし、もう帰る!」とお鶴はプイと膨れて、岩屋の中に入って行った。

 五郎右衛門はお鶴の後姿を見ながら笑うと、また、木剣を構えた。

「ねえ、この中、お掃除するわよ」と岩屋の中からお鶴が言った。






24




 掃除が終わるとお鶴は洗濯を始めた。わけのわからない歌を陽気に歌っている。

 五郎右衛門は木剣を構えたまま、そんなお鶴を見ていた。

 ‥‥‥あの女はこだわりがちっともないからの。その時、その時の気分次第で生きている。

 あの女は禅そのものじゃよ。禅が着物を着て歩いているようなもんじゃな‥‥‥

 活人剣‥‥‥人を活かす剣とは?

 眠り猫か‥‥‥

 わからん‥‥‥

 五郎右衛門は木剣を下ろし、お鶴の方に行った。

 お鶴は歌を歌いながら洗濯に熱中していた。五郎右衛門が後ろに立っても気がつかない。

 お鶴の洗濯している姿を見て、五郎右衛門は隙がないと思った。

 試しに木剣を構えてみた。

 彼女を斬ろうと思えば、簡単に斬る事はできるじゃろう。

 しかし、今のわしは彼女を斬る事はできない。

 当たり前じゃ。

 相手は女だし、丸腰じゃ。

 しかも、何の敵意も持っていない。

 そんな相手を斬れるわけがない。

 もし、お鶴がここで、わしの存在に気づいて振り向き、わしを見て、恐れを感じたら、そこに隙が生じる‥‥‥

「お鶴」と五郎右衛門は呼んでみた。

 お鶴は歌をやめ、後ろを振り返った。

「びっくりしたあ。何やってんの?」

「お前を相手に剣術の稽古じゃ」

「今はダメよ、忙しいんだから。それより、あなた、お魚を捕ってよ。いっぱい泳いでるわ。今晩のおかずにしましょうよ」

 お鶴はまた、洗濯を始めた。

 五郎右衛門は木剣を下ろした。

 わしがこんな事やったって、お鶴が驚くわけないか。

 もし、わしじゃなくて、知らない男だったら、どんな反応するんじゃろうか?

 逃げようとするか?

 攻撃しようとするか?

 何もしないで洗濯を続けるか?

 逃げようとすれば斬られる。

 攻撃しようとしても斬られる。

 何もしないで洗濯をしていても‥‥‥やはり、斬られるか‥‥‥

「お鶴、お前が歌ってるのは何の唄じゃ?」

 五郎右衛門は洗濯しているお鶴の背中に声を掛けた。

「いい歌でしょ? 今、流行ってるのよ」

「流行り唄か‥‥‥聞いた事もないな」

「あなたは遅れてるのよ」

「確かに、わしは遅れているが‥‥‥随分、調子のいい唄だな」

「百恵ちゃんの歌よ」

「百恵ちゃん?」

「うん。今、一番、流行ってんだから」

「お前はよく、そんな唄、知ってるな」

「これでも、あたしは芸人だったのよ。流行り歌なら何でも知ってるわ。今晩、聞かせてあげるわね。あなたも歌の一つくらい覚えた方がいいわよ。最近ね、江戸に吉原っていう大きな花街ができたんですって。そこに行った時、歌の一つも歌えなかったら、みんなから笑われちゃうわ。せっかく、いい男なんだから、歌くらいできなくちゃ。あたしが教えてあげるわ」

「唄なんかいい」

「ダメ。剣ばかりやっててもダメ。もっと、心に余裕を持たなくちゃ。うん、そうだわ、歌が一番いいわ。たとえばね、あなたが誰かに喧嘩を売られたとするでしょ。相手は刀を抜くわね。その時、あなた、陽気に歌を歌うのよ。そうすれば、相手だってさ、喧嘩する気なんかなくなっちゃうじゃない」

「それじゃあ、わしが馬鹿じゃねえか」

「馬鹿だっていいじゃない。喧嘩をすれば、あなたは相手を斬っちゃうでしょ。相手は痛い思いをするし、あなただって嫌な気分になるでしょ。それが、あなたが馬鹿になるだけで、その場が丸く治まるのよ。ね、それよ、それが一番いいわ。ね、そうでしょ?」

「そうじゃな、しかし‥‥‥」

「しかしじゃないの。あなたは強いんだから、一々、それを見せびらかす必要はないのよ。ね、馬鹿になりましょ。それに決まりよ‥‥‥さて、洗濯も終わったわ。あたし、ご飯の支度をするから、あなた、お魚、お願いね」

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