人間に興味を持った妖精のラーラが現在過去未来と遊びながら、少しづつ人間を理解していきます。
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酔中花  序章
2007年06月28日(木) 01:14

酔中花










序章




人里遠く離れた険しい山の奥深く


泉のほとりに慎ましく


何千年にたった一度だけ


光り輝く可憐な黄金色の花びらを開き


恍惚の香りを漂わせ


ひっそりと咲き誇る花の事を


人々は酔中花と呼ぶ


未だ誰も見た者はないという





しかし 真相は


人里近くのどこにでもある山の中


泉のほとりに慎ましく


何千年もの昔から


可憐な無色透明の花びらを開き


あたり一面に


何とも言えない微かな香りを漂わせ


ひっそりと咲き続ける花の事を


酔中花という


今までに何人かの人間が


その花を見る事ができた


が 花は何も知らずに


ただ無心に咲いているだけであった


今もなお永遠に咲き続けている






第一部 月影 1
2007年06月28日(木) 20:14

第一部 月影







 皆さん、こんにちわ。

 あたしの名前はラーラ。

 人間たちは酔中花と呼んでるらしいわ。

 確かに、あたしはお酒は好きよ。でも、毎日、二日酔いでフラフラしてるわけじゃないのよ。何よ、酔中花って‥‥‥

 まるで、一升ビンの中で咲いてる花みたいじゃない。まあ、それもいいけどね。

 とにかく、あたしはラーラって名前があるの。覚えといてね。

 誰がつけてくれたのか、あたし、覚えてないんだけど、物心ついてから、ずっとラーラって呼ばれてるわ。

 あたしもラーラって名前、気に入ってるの。

 何となく、可愛いでしょ。あたしにぴったりよ。

 多分、お父さんとお母さんがつけてくれたんでしょうけど、二人とも、あたし、知らないの。

 会いたいとは思ってるけど、別にどうでもいいの。

 だって、あたしの一生って、ほんとに短いんだもの。お父さんやお母さんを捜すより、もっと楽しく生きようと思ってるの。

 二人にはとても感謝してるわ。きっと、お父さんもお母さんも、あたしの気持ち、わかってくれるわ‥‥‥

 どうも、湿っぽくなっちゃうな‥‥‥

 楽しくやりましょう。

 だって、あたしの一生って、たった一日しかないのよ。

 朝生まれて、夕方には死んじゃうの。

 ねえ、どう思う?

 あまりにも短すぎると思わない?

 あたしだって、もっともっと生きたいわよ。でも、しょうがないしね。

 その短い時間を精一杯、生きなきゃね。

 人間なんて、あたしより、もっとずっと短いんでしょ。

 あたしがほんの瞬きをした位の時間が、人間の一生なんですってね。

 ほんと、可哀想だわ。

 そんな短い時間で一体、何をするのかしら。

 でも、人間にしたら、それが丁度いい時間なのかもね。

 人間から見たら、あたしなんか何千年も生きてるお婆ちゃんね。

 でも、勘違いしないでよ。

 いくら、人間時間で何千年も生きてるからって、あたしはまだ、うんと若いんだから。

 ほんと、見せてあげたいわ。若くて綺麗なあたしを‥‥‥

 さてと、何か面白い事ないかな‥‥‥
第一部 月影 2.3.
2007年06月29日(金) 12:45




 都会の夜。ネオンサインと車のライトが交差しては流れる。

 ネオンサインの光の中でうごめく人間の波。

 狭い路地に小さな飲み屋が並んでいる。

 氾濫した音の中をさまよう酔っ払いたち。

 チンピラ風の男が勢いよく走って来る。

「火事だぞ。おい、火事だ! 火事だ!」とわめきながら走り去った。

 酔っ払いたちはわめきながら男の後を追う。

「どこだ? おい、どこだ?」

「火事だ! 火事だ!」









 小さな食堂から火と煙が立ち昇っている。やじ馬たちが現場を囲むように面白そうに見物している。

 家の中では店の者たちが真剣な顔をして火を消そうとしている。

「おい、早く消せよ!」と片手に持った包丁を振り上げながら、真っ赤な顔をした男が怒鳴った。「俺の店に燃え移ったら、ただじゃおかねえぞ!」

「何だ、おめえ、隣の肉屋じゃねえか」と缶ビールを飲んでいた男が言った。「こんなとこで見てねえで手伝ったらどうだい」

「馬鹿野郎! 俺が火を出したわけじゃねえや。何やってんだ。早く消せ!」

 肉屋は包丁を振り回しながら、食堂の前で怒り狂っている。やじ馬たちは思い思いに目の前で起こっているドラマを批判しながら観賞していた。

「ちぇっ、つまらねえ。大した事ねえじゃねえか。うちでテレビを見てた方がよかったぜ。もっと景気よく燃えねえのか」

「二階にまだ子供がいるんだってよ」

「へえ、そういや、このうちには可愛い女の子がいたっけな。まだ、殺しちまうには可哀想だな」

「今のうちに死んだ方が、あの子のためさ」

「消防車はどうしたんだい? まだ来ねえじゃねえか」

「馬鹿め、そう早く来てもらっちゃあ、つまらねえよ。途中で酒でも買ってくりゃよかったな。火事見酒なんて乙なもんだぜ」

 煙に包まれた二階から、女の子の悲鳴が聞こえて来る。

「助けて! だってよ」若い巡査が中年の巡査に言った。「泣いてますよ。先輩、助けてやった方がいいんじゃないですか」

「おめえこそ、助けてやったらどうだい。有名になりてえって、いつも言ってるじゃねえか。今、火の中に飛び込んだら、明日の新聞にでかでかと載るぜ」

「よして下さいよ。こんなちっぽけな火事くらいで新聞なんか載りませんよ」

「いい匂いがするわ」と買い物袋をさげた若い奥さんが隣の奥さんに言った。

「そうね、勿体ないわね。食べ物、みんな焼けちゃったのよ」

「うち、まだ、お夕食前なのよ。今日は久し振りにお肉でも焼こうかしら」

 火はだんだんと消えてくる。肉屋の親爺も安心して自分の店に帰って行った。

 水浸しの食堂の中では従業員の女の子が汗と水でびっしょりになりながら、バケツを持って階段を行ったり来たりしていた。

 親爺は疲れ切って、唯一、焼け残った椅子に腰を下ろし、燃えて穴の空いた天井をボケッと見ている。

 おかみさんは泣いている娘を抱きながら一緒に泣いていた。

「そろそろ終わりらしいな」

「畜生、石油でもぶっかけてやりてえな」

 火はほとんど消えた。遠くの方からサイレンの音が近づいて来た。

 二人の巡査は高みの見物から、急にお巡りの顔に戻り、しかめっ面をしながら現場の中に入って行った。

 やじ馬たちはブツブツ言いながら散って行った。
第一部 月影 4.5.
2007年06月30日(土) 19:45




 イーゼルの前に座り込んで絵を描いている昭雄。

 キャンバスには苦しみに歪んでいる女の顔が描いてある。まだ未完成。筆を口にくわえ、キャンバスから離れて絵を見つめる。首を傾げたまま、しばらく動かない。

 六畳一間に台所だけのアパートの一室、窓からは街のネオンの光と酔っ払いの声、飲み屋から流れる下手くそなカラオケの音などが入って来る。壁には何枚もの油絵が無造作に飾ってある。

 錙広い草原にポツンと赤ん坊が泣いている絵。

 錙妖精の格好をした麗子の肖像画。

 錙小川に三日月の影が映り、大きな石に黒く二つの人影のある風景画。

 錙足を組んで椅子に腰掛けている裸婦。

 錙月夜の晩に祈りを捧げている着物姿の女の図。

 そして、未完成の作品が壁に立て掛けてある。

「ただいま」と赤ん坊をおぶった麗子が帰って来た。

「遅くなってごめんなさい。ねえ、あなた、今、火事があったのよ。ほら、銀行のちょっと先に食堂があるでしょ。そこから火が出たの。わりとすぐに消えちゃったけど凄かったわ。風がなかったから、よそのうちには移らなかったけど、あの食堂はほとんど燃えちゃったわ。それが面白いのよ。消防車が着いた時にはもう、火はほとんど消えてたの。それなのに水を撒いてんのよ。だから、もう水浸し。隣のお肉屋まで、びっしょりよ。親爺さん、かんかんに怒ってたわ。それで、水浸しになったお肉を貰って来ちゃった。すぐ用意するわね」

 麗子は赤ん坊を部屋の隅に寝かせて、台所で買い物袋を開けた。

 昭雄は絵の道具を片付ける。

「どう、いい絵、描けた?」

「どうも、うまくいかんよ」

「そう‥‥‥ねえ、あなた、今夜、何か面白いテレビある?」

「ああ、あるよ。九時から『殺意』が」

「ああ、あれ。実際にあった話なんでしょ」

「何だってあるだろ、今の世の中」

「でも、怖いわ。理由もないのに殺されるなんて」

「生きてるのに理由がないんだから、死ぬのにも理由なんかいらないさ」

「そうね‥‥‥今、何時?」

「八時半」

「もうすぐ、できるわ」









 テレビでは『殺意』をやっている。

 食卓を囲んでテレビを見ながら食事をしている昭雄と麗子。

「この犯人、今、どうしてるのかしら?」

「外国にいるらしいよ。大分、儲けたらしいからな」

「そうね、ベストセラーだもんね」

「大したもんだよ。刑務所にいて大金持ちになったんだからな」

「でも、たった三年でしょ。また、人を殺したりしないのかしら」

「また、外国でやるんだろ。今度はハリウッドで映画になるかもしれないな」

「あなた、もう、いいの?」

「ああ」

「最近、少し変よ。どこか、体の具合でも悪いんじゃないの?」

「何でもないよ」

「そう‥‥‥でも、人を殺して大金持ちになるなんて、いいわね」

「普通の奴らじゃ、できやしないさ。あいつは天才なのかもしれないよ」

「ねえ、もし、この部屋に突然、入って来たらどうしましょう」

「まさか、そんな事はないさ」

「だって、何も理由なんてないのに関係ない人たちを十八人も殺して来たんでしょ」

「殺しなんて日常茶飯事だろ。いちいち気にしてたら生きて行けやしないよ」

「そうね」

 二人はテレビの画面に熱中してくる。


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